大鹿村訪問


                                                 TENSION 井上好司
大鹿村に行ってきた。
強く思っていた訳ではないが、なんとなく昔から気になる所だった。僕が小中学生
の頃に大学生くらいの世代の文化。学生運動が下火になって、ベトナム戦争、
ウッドストック、イージーライダー、カウンターカルチャー。
70年代のヒッピーたちの行き着いた先。コミューンを形成して住み着いた村。
そんなコミューンは日本の各地に当時できたそうだが、大鹿村のように
今なお多くの当時の移住者が子供や孫の世代まで住み続けている村は珍しい。

現代社会や時間の流れにとらわれず、独自の感性で生きる人たちが自然に集まって
形成されたコミューン。そういう人たちを迎え入れた村。長野県南部のどこからも
隔絶されているような最奥の村。そのまた奥は3,000m級の山々が連なる赤石山脈の
主峰の一つである赤石岳。

50歳を過ぎてから山を始めて、大鹿村が赤石山脈への登山口の一つであることを知り、
昔の大鹿村への淡い思いがうっすら蘇っていた。
はっきり大鹿村に行きたいと思い始めたのはこの2〜3年のこと。
リニア新幹線の建設に際し、赤石山脈のどてっ腹にトンネルの穴を開けるという話を
聞いて嫌〜な思いがして、またむかしのヒッピーたち30数年前に入村した人たちを
中心にリニア建設反対運動が起こっていることを聞いて、彼らの話を直接聞いて
みたいと思うようになった。

この人たちから数年遅れて生まれた僕の世代には「政治アレルギー」のようなものが
あって、どうも反対運動というものに直接参加することを避ける傾向がある。
リニア建設反対の話を聞きたいという気持ちももちろんあるが、それが大鹿村に
行きたい動機のすべてではなく、今の彼らがどんな思いで生きているのか、
実際どんな暮らしをしているのか、そんな事にも興味が向いていた。

日程がはっきりできないこともあって大鹿村の宿泊先を予約しないまま入村した。
村に入ってすぐに宿泊先を紹介してもらおうと観光協会に行くと宿泊施設はどこも満室、
平日であるのにもかかわらず隣村の松川まで行かないと空いている宿泊施設がないという。
大鹿村おそるべしである。キャンプ装備は一式持っていたので仕方がないから東屋と
トイレのある公園で夜を過ごすことにして、あらかじめ紹介してもらっていた人に
会いに行った。リニア反対派の人の話を聞きに大鹿村に行くのでとある人から誰を
訪ねて行ったらいいか3人ほど紹介してもらっていたのだ。

運よくそのうちの一人の方とお会いすることができて、中央構造線の話、
赤石山脈の独特の地質の話を伺うことができた。またJR東海から説明を
受けておられるトンネルの工法についても説明して頂けた。日本が誇る屈指の
建設業者が採用する建築方法なのだから、きっと土木の観点から見れば最善の
工法なのだろう。でも決して赤石山脈に優しい工法とは思えない。自然に対して、
命に対して、水に対して、信仰心に対して配慮しているとは思えなかった。

50歳を過ぎてアウトドアを始めて8年、人にとって大切な事とは、キーワードで言うと
「自然」「命」「水」「信仰、或いは祈り」だと感じている。その方のお話からも
この4つのキーワードを感じてなんだか不思議な気がした。
翌日にはたまたま偶然なのだが、「リニア新幹線を考える登山者の会」が
主催する交流会が大鹿村であって、それにも参加してきた。

山をやる者なら誰もが知っている登山家やクライマー・気象予報士、
僕が所属している山岳会の最上部団体の連盟会長などが発起人になっている。

帰りのバスの時間があるので途中で退席したのだが、
正直な感想は「僕の遊び場を壊さないで…」という若干稚拙さを感じさせる内容だった。
山屋のレベルは僕も含めてその程度でいいのかもしれない。

今回大鹿村までどんな方法で行くかいろいろ考えた。誰かを誘って一緒に行く。
レンタカーを借りて行く。バスを乗り継いでいく。
結局静岡側の畑薙ダムから入山して赤石山脈南部を6日間かけて縦走して
三伏峠から下山して大鹿村に入ることにした。

「リニア反対派の人の話を聞きたくて大鹿村まで6日かけて歩いて来たんだ」と
言ったら「馬鹿な奴が来た」というような顔をしながら笑顔で暖かく迎え入れてくれた。

結局いろいろ説明をして下さった方のお宅に泊めてもらって家庭菜園のもぎたての野菜を
調理して夕食に頂いた。そんな村の人たちに感謝を申し上げたい。

参考HP
大鹿村中央構造線博物館 http://www.osk.janis.or.jp/~mtl-muse/
リニア新幹線を考える登山者の会 URL: http://minamialps.mygarden.jp/
8月5‐6日大鹿村現地集会の様子 URL:https://twitter.com/tozansyarinia
南信リニア通信レポート http://www.nbbk.sakura.ne.jp/npp/2017-0808.html

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