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編集者のページ(2019年5月号)

  文責:大西清見(泉州勤労者山岳会)                      時過ぎて60年−旅と山と教室で出会った人たち−?  大西清見 中国での強盗事件(続) 2003年1月5日のことでした。4日間の北京の旅の二日目、私は自由行動をとって、 どうしても行ってみたかった北京原人の遺跡・周口店に行ったのです。 その周口店から帰って北京一の繁華街・王府井で夕食を済ませホテルに帰る途中、 若い男女が分かりやすい中国語で私に話しかけてきました。 「中国語の勉強を兼ねてカラオケに行きませんか」というような内容であったと思います。 その後タクシーに載せられ、カラオケ店らしい部屋に連れて行かれたのです。 私はカラオケが得意ではありませんが、カラオケを通して中国人と交流をし、 中国語の一つでも深めればと思ってついて行ったのですが、部屋に入ってからは後の祭りでした。 部屋の中は照明やマイクの設備はあるものの、人はほとんどいなく無気味な雰囲気が充満していました。 カラオケの部屋ではしばらく沈黙が続くなか大男3人が私の手をつかんでエレベーターに乗せられました。 エレベーターで4階に行き、部屋に閉じ込められ監禁状態となりました。 その後リーダー風の若い男が入ってきて、持っているものを全部出せと言って初めて強盗集団と分かったのです。 たまたまこの日はパスポートと旅費の大半はホテルに預けていたのですが、 うっかり持ち歩いていたクレジットカードが見つかってしまいました。 若いリーダーがその暗証番号を聞き、その後市街のATMに引き出しに行ったようです。 リーダーが外出していた時間は約2時間でした。常に見張りは3人で、この3人は日に焼けた中年の大男で、 あとで考えればリーダーは漢族、見張りの男たちは農民出身風の少数民族であったと思います。 この監禁の2時間はとても長く感じ、このままでは後で抹殺されるだろうと考え、脱出方法を真剣に考えたのでした。 部屋は4階なので窓から飛び降りることは自殺行為です。チャンスは二度ありました。一回目は見張りが一人となって、 その一人が携帯電話をかけていたので、その隙をねらって部屋を出ようとしたのですが、 すぐにタックルされて失敗に終わりました。 もう一回はトイレに行く口実をつけて部屋をダッシュで脱出しようとしたのですが、 これも3人の男たちにあっという間に取り押さえられたのです。といってもこの2時間は、 この二件の脱出のトラブル以外は危険を加えられることは全くありませんでした。 この私を見張っていた3人の男たちは、時々分かりにくい中国語で話しかけてきたり(これは北京語以外の中国語でした)、 タバコもすすめてくれたり、かなり優しさが伝わってきました。 約2時間後、帰って来たリーダーは笑顔で、「もう帰っていい」とクレジットカードを返してくれました。 うまくATMで現金が引き出せたようで機嫌もよく、あとの3人に送っていくように指示をしたのです。 真っ暗な路上でタクシーが待っていて、なぜか3人の男たちは、私と握手をして別れたのでした。 この事件の翌日は丸一日もかかって警察の取調べがありましたが、 事件の現場も夜ではっきり分からなかったということと中国の警察の捜査要領も能率の悪さもあって、 犯人の真相などはほとんど見通しが立たなかったのです。 この事件で言えることは、毎年1月にはこのような強盗の事件が多発しているようです。 それは地方から出稼ぎに来た農民たちが、2月上旬の春節(中国正月)の帰省で残された家族の生活費を 持って帰らなければならいという切羽詰まった事情もあるそうです。 こういうところにも都市部と農村部の経済格差とその歪があらわれています。 振り返ってみると、あの事件の見張りの男たちの素顔は、今の中国の「農民の貧しさ」にあるのだと考えると、 帰国後に少しは違和感がなかったのが不思議でした。 ◇編集後記◇  この一年、但馬(兵庫県北部)経由で実家(京都府伊根町)に帰省することが増えました。 2月は豊岡市日高町の植村直己冒険館に寄ってみました(2月15日)。 植村直己冒険館は、年間23,000人も入館者があるそうです。 私も今回で5回目、いつも登山だけではなく、残された人生においても希望と勇気をいただいて帰ります。 冒険館の書籍販売コーナーで人気bPの本が『青春を山にかけて』とか、 私も一昨年に久しぶりに本棚から取り出して読み返したことがありました。 この本の解説には「五大陸の最高峰を踏んだ登山家としてその名を世界に知らしめた植村直己。 戦後日本が生んだ最大の探検家の若き日々の記録。家の手伝いからは逃げ、学校ではイタズラばかりしていた少年は、 大学へ進んで、美しい山々と出会った。大学時代、ドングリとあだ名されていた著者は、百ドルだけを手に日本を脱出し、 さまざまな苦難のすえ、夢の五大陸最高峰登頂を達成する。アマゾンの60日間イカダ下りもふくむ、 そのケタはずれな世界放浪記の全貌(西本正明)」と書かれています。 偉大な登山家・冒険家なのに決しておごることのない植村直己氏、 この本のあとがきに「私は五大陸の最高峰に登ったけれど、高い山に登ったからすごいとか、 厳しい岩壁を登攀したからえらい、という考え方にはなれない。山登りを優劣でみてはいけないと思う。 要は、どんな小さなハイキング的な山であっても、登る人自身が登り終えた後も深く心に残る登山がほんとうだと思う」と いう言葉を記しています。素晴らしい植村直己氏の言葉ですね。 この機会にもっともっと植村直己氏を知りたいと思ったのでした。(大西清見) *************************************  今月も各会より会報を送っていただきました。   安治川山の会ニュース(安治川山の会)、やまなかま(泉州労山)、 きたろうニュース(きたろうHC)、にしよど(西淀労山)、ぽんぽん山(高槻)、 奈良県連ニュース滋賀県連ニュース、福岡県連通信、労山おかやま、やまと友の会、 HCかざぐるま、京都労山、噴煙(鹿児島労山)、兵庫労山会報、県連ニュース(和歌山労山) 発行日 2019年(平成31年)3月18日 398 編集・発行 入澤、大西秀、笠井、園、高橋、中井、中尾、服部、大西清 *************************************
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