アウトドアするということ


TENSION 井上好司

  都会の生活はでき得る限りのリスクと困難を排除し、利便性を追求したところに成り立っている。
それ故に便利で安全だ。生まれながらそんな環境に育った現代の都会人は本来人に備わっている感覚や
能力を磨かないまま生活していると言える。未熟なままの能力、休眠状態の感覚、忘れてしまった感性。
アウトドアに出るとそんな眠っている感覚や能力が刺激されてかすかに働き始めることに気付く。

 整備された登山道は高速道路と同じだ。道は歩きやすいように整備され危険なところにはロープや
梯子が用意され、道標の通りに歩けば目的地にたどり着ける。コースタイムを記した地図も市販され、
取除き切れずに残ったリスクや困難が記されている。その僅かに残ったリスクや困難だけを克服して
目的地に到着できたしても、はたしてそれは自然と真摯に向き合ったと言えるだろうか。
都会感覚のままのアウトドア。

 自分の前に道がなくても、見える範囲の地形を見て比較的安全で容易なルートを考え、地図を見ながら
現在地を確認しつつ歩みを続ける。時には現在地をロストすることもある。このまま前に進むか撤退する
か不安や僅かに涌いてくる恐怖心と戦いながら決断を迫まれる。自然と真摯に向き合い眼前の困難や
リスクを克服しようとする中でこそ蘇る、現代人が忘れかけている感性がある。

 この日本列島に人が住み始めてから30,000年以上、その間にも地震・火山噴火・津波などの自然災害は
繰り返し起こっている。この日本列島に住み続けるということは災害の中で生き続けるということだ。
我々の先祖はそんな環境の中で生き抜く感覚と能力を3万年掛けて自然と共に培い、逞しく生き続けてきた。
地震・津波・原発事故と相次ぐ災害で混沌とする現代の日本。漫然と未来に不安を抱える今の日本人に
明るい未来を開くヒントがこの忘れかけた感覚や能力にあると僕は本気で思っている。

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